平成28年版土地白書を読んで

8月20日、28年版土地白書が発行された。白書を読んでみて興味のあったこと、気づいた点について少し述べてみる。

 

1、土地取引の動向

法務省「法務登記月報」によると全国の売買による所有権の移転登記の件数は平成27年度128.7万件で前年に比べると2.4%増となっている。因みに昭和45年からの土地取引件数の推移,動向を見ると当時の総理大臣、田中角栄の日本列島改造論で国中が沸いていた昭和48年の取引件数は351万件で平成27年度に比べると実に3倍近い取引があった。

昭和48年と言えば小生は大学2回生、貧乏学生の身で世の中の高度経済成長や土地バブルからは無縁の世界にいたが当時、同じ土地が1年間の間に2度3度と転売を繰り返しそのたびに価格が上昇していったこともあったそうである。その後平成に入って再び土地バブルを迎えるがその後20数年間は下落を続けた。因みに平成23年は114万件でこの間ではいちばん低くなっている。

最近は地方でも場所によっては地価が上昇に転じてきたところも見受けられる。そうすると平成23年あたりで取り敢えず地価も底を打ったということかもしれない。

 

2、団塊の世代と高齢化

高齢化の進展を背景に医療・福祉施設の増加も続いている。サービス付き高齢者向け住宅の登録数は。登録制度の創設から4年余りが経った平成27年12月時点で5,885棟、19.1万戸に達している、また有料老人ホームの施設数も平成16年の962施設から平成27年には9,581施設と高齢化の進展を背景に実に10倍近くまで急増している。(土地白書34頁)

老人ホームに入るにもピンは何千万円もの入所一時金を払った上に毎月何十万円もの施設利用料を払うといった、まるでホテル住まいみたいなものからキリは相部屋でトイレ・炊事場は共同、食べ物はまずいといったところまで・・・まさに老人ホームも金次第ということである。

 

3、土地に関する意識

土地の所有は、生活の基盤である住宅用地等としての目的だけでなく、資産としての目的を有する。この資産としての土地に対する認識は平成バブル崩壊以降大きく変化してきている。

国土交通省において毎年実施している「土地問題に関する国民の意識調査」によると、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という質問に対し、「そう思う」と回答した人の割合は、平成5年度、平成6年度は6割以上であった。しかし、その割合は年々低下しており、平成10年度以降は30%台で推移し、平成27年度は調査開始以来最低の30、1%と約20年の間に所有することへの有利性に関する認識が大きく後退している。(土地白書43頁)

土地は所有していれば値上がりするものという土地神話は完全に崩壊し不動産は負動産、土地資産は土地屍産になり果てたという認識変化が窺える。

したがって今後の土地所有についても所有するより借地の方が有利と考える人が当然のことながら増えてきている。(土地白書54頁)

 

4、地価に関する意識

今後の地価動向に関する意識に着目すると、「今後の大都市圏と地方圏の地価の見通しについて」聞いたところ、大都市圏の地価について「大きく上昇する」、「少し上昇する」と回答した人の割合はともに約27%を占め、「上昇する」と回答した人が約55%に達する一方で、地方圏の地価については約35%が「少し下落」、約18%が「大きく下落」と回答しており、5割以上の人が「下落する」としている。(土地白書59頁)

土地を買うならやはり高くても地方より都市部ということである。安倍政権は地方創生とか全国津々浦々まで経済効果の果実を波及させるとかいっているが一般国民の素直な地価予測から見ても地方は今後ますます疲弊していくということか。

 

5、住宅ストック数と空き家の状況

住宅ストックの状況をみると、総務省「住宅・土地統計調査」によれば、住宅数は昭和43年に総世帯数を上回り、平成25年には6,063万戸となっている。一世帯当たりの住宅数は、昭和38年以降、一貫して上昇し、平成25年には1、16戸となっており世帯数を上回っている。(土地白書114頁)

こうした住宅供給の増加により、空き家の総数は、平成25年に820万戸となり平成15年に比べて1,2倍、平成5年と比べて1,8倍に増加している。空き家の種類別の内訳では、「賃貸用又は売却用の住宅」(460万戸)が最も多いものの、売却・賃貸用以外の「その他の住宅」(318万戸)が平成15年と比べて1,5倍、平成5年と比べて2,1倍に増加している。(土地白書114頁)空き家の増加は防災、防犯の面、近隣環境の悪化の問題など少子化問題と相まって今後の大きな社会問題の1つである。

平成28年版土地白書を読んで
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