課税上における建物の時価

固定資産税の課税の為の建物評価は地方税法の規定により総務大臣が定める「固定資産評価基準」によるとされている。これは固定資産の時価というのはその資産自体の評価を行う市町村が全国同一の基準を用いることによって評価、課税の客観性、公平性を保とうとするためのものである。

固定資産税は固定資産の有する価値に着目して毎年課税するものであることから毎年度評価替えをして課税を行うことが理想ではあるが現在全国に約6千万棟ある家屋を毎年度評価替えをすることは実務上困難であり原則として3年ごとに見直すというふうに制度がつくられている。因みに固定資産評価における建物の評価は再建築価格を基準とし経過年数に応じた減価等を行って評価する方法がとられている。また一般的には市場価値は経過年数に応じて限りなく減価し最終的には市場価値0、場合によってはその建物に価値が見出すことができず価値0の上に建物の取り壊し費用が発生するということが往々にしてある。しかしながら建物の固定資産税を課税している市町村は建物が敷地上にある以上は(取り壊さない限り)固定資産税を取り続けるというのが建前である。また固定資産の建物評価の減価は原則80%までで残価率の20%は何十年たっても残り続けるというのが今の制度である。ここらあたりが建物の課税を建前とした固定資産評価制度と実務上の建物の市場価値の差に矛盾が生じてくるのである。特に現在のように諸物価が右肩下がりの場合は過去のコストの方が高く勢い残価も高止まりしているケースが多く見受けられる。

相続や贈与が発生した際、税務署の申告する建物の申告価格も原則としいぇ固定資産税評価額である。固定資産評価格で申告していれば税務署としてはまず問題ない。しかしその申告額所謂、建物固定資産評価格が実際の時価、市場価格より大幅に高いと判断される場合、その差額分に税率を乗じた分だけ贈与税、相続税の払い過ぎということになる。

そこでこの件に関し最近かかわった事例を紹介する。

松山市内の住宅地に所在する昭和50年2月に建てられた鉄筋コンクリート造3階建ての居住用の建物である。開業医の建物で建築当時としてはモダンでグレードの高い建物であったことが窺える。その開業医が昨年亡くなり相続の手続きが開始された。建物の延べ床面積は約300㎡で住宅としては大きい。平成28年度の建物固定資産評価額は約1900万円である。申告の際、建物の評価額が高いのではないのかということで当方に相談があった。   建築後40数年経過しており躯体部分はまだ大丈夫としても新耐震基準もクリアーしていないし規模、間取りにしても一般的とは思えない。取り壊し最有効ということも考えられるがすぐに取り壊しということも少し乱暴の感がする。問題はこの建物の市場価格はいくらかということである。近隣の地域性、需給関係、物件の個別性などを考慮し最終的に鑑定評価額は約800万円という結果になった。1100万円の差額が出た。これに該当税率を乗じたものが結果として納税額が減ることになる。(税務署から異議が出ない限りということではあるが)このように固定資産の建物評価額が市場価格に比べ高止まりしているケースが少なからずある。とくに平成に入ってバブルが崩壊し土地価格を始め建築費も右肩下がりで下がってきた。(最近は土地、諸物価ともやや持ち直しの感はでてきているが)そうなると30~40年前の建築費が今より高い当時に建築した建物は建築費が高いまま減価修正されており勢い残存価額(現在の固定資産評価額)も高止まりしているといった感がある。

後日談であるがこの案件、最近売買になり結果、更地価額から建物取り壊し費用を差し引いてくれたら購入するという買い手が現れその条件で売買したということである。鑑定評価額約800万円は市場価額より高かったが固定資産評価額よりは低かった。それが現実の取引市場と鑑定評価の違いということか。土地価格は現在、地価に関する情報がたくさんあり相場が立てやすくよほど特殊な土地でない限りさほどブレは生じないとしたものである。建物については建築後ある程度年数の経過した非木造で規模の大きい建物ほど取引市場価値と固定資産評価額にブレが生じるということにもなる。

余計な税金を払うことのないようにする為にも相続や贈与の申告の際、特に建物の時価については要注意である。

課税上における建物の時価
トップへ戻る